• 研究概要
  • 2017.3

めざすもの
 レーザーは、モバイル製品や自動車、家電品など、生活を支える製品の構成部品としてますます重要なデバイスになるでしょう。レーザー光は、高速性、直進性、単色性に優れているため、大量の(光)情報を高速に読み/伝え/書き込むことができるからです。そして、光ファイバや大面積フィルムなど軽くて小さなデバイスで伝送や表示ができたり、あるいは空間を飛ばして狭いターゲットに当てることができるからです。このようなレーザー光の性能(読み/伝え/書き込む)をフル活用し、画期的な情報処理/検出素子を作り出すためには、レーザー光を自在に制御できる画期的な材料あるいはレーザー光に加わった情報を正確に読み出す画期的な材料が必要です。電気信号あるいは光信号によって、レーザー光の伝搬方向を変えたり、特定波長を取り出したり、強度を変えたり、位相を変えたり、あるいは一瞬停めたりする材料が必要です。そんな材料を創製するために、特に有機材料に注目し、電磁気学、誘電体工学、光波工学的な手法を駆使して研究に取り組んでいます。

分子の向きをそろえると光が操作できる
 レーザー光を制御するためには分子の向きがそろった材料を利用することがとても有効です。光波は屈折率(光感受率)を感じて材料中を伝搬します。従って、屈折率を変えると光波の伝搬を変えることができます。そのことで、光波の偏光や速度、更には波長さえ変えることができるのです。逆に、そのような光の性質変化から屈折率変化を検出することができます。それらを効率的に達成するには、材料の屈折率に方向性があることが有利です。屈折率に方向性がある材料は光学異方性をもつといい、原子や分子を方向性をもって並べることで得ることができます。そのような光学異方性の材料としては光学結晶があります。光情報処理の分野では既に大活躍しています。例えば、インターネットはそれなくして成り立たないといっていいでしょう(基幹系光ファイバの変調器として)。しかしながら、結晶は原子が緻密に安定に並んだものであるため、感受率の大きさを変えるのは簡単ではありません。従って、限られた種類の結晶しかありません。それに対して、有機分子は媒質中(ポリマーなど)で向きを揃える(分子配向)ことができます。更に、分子自身に大きな分極率(感受率に相当)を持たせることができます。つまり、結晶を超えるかもしれない、「すごい」光学異方性材料ができるかもしれないのです。



光の操作に必要なもう一つの要素
 先に光制御には材料の光学異方性が有利であること述べましたが、それ以外に、もう一つ重要な要素があります。それは、素子の大きさ(精度)です。特に可視光は、ミクロン以下のサイズの波長をもっています。そのような光波を制御するには、一般的には同程度の大きさの部品、あるいは同程度の精度で加工された、あるいは調整できる構造体が必要になるのです。例えば、回折格子にはミクロンサイズの溝が緻密に並べられ、光導波路にはミクロンサイズのコアが作りこまれています。

光波を自在に操る有機材料が必要
 以上で説明したように、光波を高度に制御したり検出したりする有機材料では、分子の向きが揃っていて電気あるいは光で性質が調整でき、しかも素子のサイズが精度よくできていなければなりません。実は、そのような材料はまだほとんどないのです。その代表選手が液晶です。しかしながら、その価値の高さは十分に認識されています。なぜなら、もはやそれなくして我々の生活はなりたたないといってよいからです。有機材料の秘めた可能性の一端が分かります。これからの世の中では、レーザーを含めて光波を使う製品が数多く登場するはずです。そのためには、光波を制御可能な有機光材料をもっと創り出す必要があるのです。

有機光機能材料に期待する「すごさ」
 有機光材料では他ではできないよう機能が期待できます
・広い調整幅
・劇的に大きな変化
・自発/順応性、など

例えば、有機フォトリフラクティブ材料


 分子配向制御の観点から興味深いのは有機フォトリフラクティブ材料です。フォトリフラクティブ材料は、半導体の一種で、光を当てると内部で生じた電界によって屈折率が変わる材料として知られています(光半導体)。詳しくは、明暗の強度分布をもつ光によって、その明暗パターンに対応した屈折率分布が材料内に発生します。そして、強度分布のない一様強度の光を当てると屈折率パターンは消えて基に戻ります。このフォトリフラクティブ効果を利用すると、光で屈折率構造(情報)を書き込むことや、光の伝搬を自身で変えることができたりします。例えば、リアルタイムによる、3D画像表示、画像内の任意パターン抽出、散乱体(皮下組織)内の物体可視化(OCT、PAT)などが期待されています。
 フォトリフラクティブ材料は無機光学結晶において1960年代に最初に発見されました。そして、1990年代になって、ポリマーや液晶などを含む柔らかい材料で大きなフォトリフラクティブ効果が生じることが見出されました。それらの有機材料では、材料内で生じた電界が分子の配向を変化させて大きな屈折率変化を発生させます(配向増大フォトリフラクティブ効果)。現在では、10~30ミリ秒で10^(-3)~10^(-2)で屈折率が変化する材料が開発されています。しかしながら、デバイスにおいて圧倒的なパフォーマンスを達成するためには特に応答速度について一桁以上の高速化(1ミリ秒以下)が必要とされています。この課題の解決策として、特にバルク状態制御によるキャリア制御に着目して研究を進めています。